「そんなんじゃダメだ、ダメだ」
「どこが、いけなかったのだろうか」
「どこがって全部ダメに決まってるだろう」
「そうか」
今話しているのは、我が国の主上と雁の麒麟の2人だ。
「よくそんなんで、俺達に見せたいなんて考えたな」
「わたしとしては、これでいいと思ったのだが」
「陽子、お前、本場の漫才って見たことあるか」
「テレビで少しだけ」
「そうだろう、全くテンポが合ってないし、話も伝わってこない。
そんなんじゃぁ、客が退いて帰っちまうぞ」
二人の遣り取りを耳にして、思わず呆れた表情を浮かべてしまう。
一回も見たことがなかったんですか、主上。
「なんとかやればできると思ったんだが、上手く行かないものだな」
「そんなことはないよ。陽子はよくやっているよ」
そこに話し掛けてきたのは、楽俊だ。
慶国まで、漫才を見に2人で来てくれたのだが、延麒には話にならないと先程から言われて落ち込んでいる主上を慰めている。
私としては、これを機会に主上に漫才を止めにして欲しいのだが。
「今から俺と楽俊で漫才やるから、良く見てろよ」
2人が突然漫才を始めた。
楽俊の微妙なボケと延麒の絶妙なツッコミが話しを面白く、おかしくもあり見ごたえのある漫才だ。
「すごいな、2人ともいったい、いつ習得したんだ」
主上の顔に尊敬と憧憬の念が表れていた。
「すごいだろう。ちょっと蓬莱に行って本場の漫才を観てきたんだ。で、ネタは楽俊に考えてもらった」
「いやー。オイラは延麒に言われた通りやっただけで、ネタも勉強の合間に考えただけのものだから、しっかりできてはいないし」
「そんなことはない。良く考えられているネタだった。さすが楽俊だな」
「そんな、陽子照れるからいいよ」
髭をそよがせる楽俊と、得意気に胸を反らす延麒。
二人の漫才を見て、感心し頬を染め高揚している主上。
そこだけ和気藹々としている。
「おい、景麒。オマエ俺達を見て何か言うことないのか」
「別に」
「オマエ固すぎなんだよ。それだから、ネタが滑るんだよ」
そう言われても私の性格ですから、何とも言い返せない。
そんな私を尻目に、延麒が主上に向き直る。
「陽子まだやってみるか。漫才」
「ぜひ」
待って下さい。雁の2人が上手いのは良く分かったのですが、それを見てまだ続けるおつもりなんですか。主上。
「陽子と景麒じゃあ、お互いボケボケ同士で無理があるんだよな。
ここは、別れて、俺と景麒の麒麟コンビと楽俊と陽子の赤楽コンビで練習するか」
今度は延麒とコンビを組んでやるんですか。
「私は結構です」
速攻で拒否を表明する。
「なんだよ、俺じゃあ、不満だっていうのか」
自分とは少し異なる色調の髪が、逆立っている。
「そうではなく、私を抜いた3人でやってみたらいかがですか」
「おっ、それいいね。景麒にしてはイイことを言う」
ホッ。これで私は漫才をしなくて済む。
密かに胸を撫で下ろしていると、続く言葉に目を剥いた。
「だけどそれは、景麒が一人前になって、一人でできるようになったらな」
なんですって。今度は一人でやれと。
「それまで、俺が鍛えてやるから」
そう言うと、延麒は、紙で出来た大きな扇のような物を取り出した。
「俺、スパルタだから、覚悟しろよ。景麒」
その後、主上の部屋で得体のしれない音が響き渡り、宮中の噂となるのだった。