Forelock.2


「谷山さん」
「なんですか、安原さん」
「今度はヘアピンにしたんですね」
「はい、可愛いでしょう」

 パンダ柄がついた、ピン留めを左右対称に、ナルの前髪に飾り付けた。
 資料を読むのに、前髪が煩わしいということで、髪ゴムは止めて、ピンにしたのだ。

 おでこ全開のナルは可愛くてあたしの中では好評だったのに、年上の同僚二人には、残念仕様と、ゴムを取った際に髪癖がつくことから、反対意見が出た。
 当のナルはというと、癖のついた前髪を後ろに流して、あまり気にしていないようだった。

 それで、今度はピンで両端をとめることにしたのだけど、どうせ留めるのなら、可愛いのがいいだろうと、クラスメイトに言ったら、ぜひ、これを!と可愛いヘアピンをたくさん支給してくれた。
 半分以上、楽しんでいるのだろうけれど、ナルの事情を知らないみんなは、自分が使用しているモノも渡してくれる。
 けれど、下手にサイコメトリしたら大変なので、新品だけをナルに付けている現状だ。

 女子高校生の持ち物ゆえ、どれも可愛く、シンプルなものを選ぶナルらしくないチョイスだけれど、あたしはとっても気に入っている。
 職場に華と潤いがあるのは素晴らしい。
 明日は、花模様のピンにしようかなと、ウフフと笑っていると、やはり、ムービーでナルを撮っている人物があたしに話しかけてきた。

「七三分けの所長って、これまた、インパクトがありますね」
「えっ!そこが突っ込みどころなの」

 可愛いパンダ柄ではなく、七三分けの方が安原さんにとっては、印象が深いらしい。
 うーん。今度は、真ん中でハッキリと分けてみようかな。
 いやいや、こんなに伸びきっているのだから、三つ編みにして、後ろでピンを留めてもいいかも。

 ナルの前髪を楽しく弄ることを想像していると、リンさんがこちらにやってきた。

「……、ナル」

 おでこ全開のときよりはインパクトを感じていないようだけれど、名前を呼ぶ前に一瞬言葉を詰まらせたことから、少なからず衝撃を受けたらしい。
 リンさんの前髪のように、ずっとその髪形でいれば、自然と分け目が癖としてつくと思うんだけどな。

 まだまだ切る気配のない上司の前髪で、どのくらい遊べるのか、日々楽しみな職場での一番面でありました。


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