Misunderstanding 




「綾子。美味しい。ありがとね」

 事務所にやってきた綾子が、残り物と称して、いろんなお菓子を持ってきてくれた。箱菓子の余りだとかで、他で配るのに数が中途半端なモノばかりだと言う。

 この事務所のお茶請けには、どれも高級なモノばかりで、紙袋から覗くお菓子たちに、あたしの口内では唾液が溢れ出している。

 ナルやリンさん、それぞれが籠っている部屋へと、綾子から貰ったお菓子をソーサーに乗せて、お茶を持って行く。

 リンさんは軽く頭を下げて、カップとお茶請けを受け取ってくれたが、ナルの方はというと、本に気を取られて、あたしが部屋に入ってきたのにも気付いてはいないようだ。それも毎回のことなので、あたしは普段通り、読書の邪魔にならない位置にカップを置いて、その横に、綾子から貰ったお菓子を1つだけ添えてきた。

 個別包装されているお菓子は、数時間放置されても乾燥することはない。
 ナルの場合、気が付いても食べないという方が有り得そうなので、カップを下げる際に残っていたら、あたしが貰い受けようと、みんなにお茶を手渡しながら考えていた。





 銘々、テーブルに乗せられた菓子を、手を伸ばして掴み取る。
 幾つもある中で、どれを食べようかとあたしも悩みつつ、手前にあった焼菓子を選んだ。
 それは、ナルに出したのと同じモノ。
 一瞬だけ他のにしようかと迷ったが、そのまま密封袋を破り、口を大きく開けて頬張る。

 サクッとした触感と、中に入っている濃厚なクリーム。
 そして、噛み応えのある果肉が、口の中でジュワッと広がる。

 美味しくて、ホクホクとした幸せな気持ちになる。
 その感動とお礼を持ってきてくれた人物へと告げ、なんという名のお菓子なのか、包装袋に目を向けて血の気が引いた。

 口の中に残っているお菓子をゴクリと飲み込んで、あたしは慌てて所長室へと駆け込んだ。




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